本研究課題の目的は、N結合糖鎖によるフィブリンゲルのゲル化調節機構を明らかにすることである。血液凝固の中心的役割を担っているフィブリノゲン(Fbg)分子は、4ヶ所にN結合糖鎖をもつ糖タンパクである。このN結合糖鎖がフィブリノゲンAα鎖のC末側約2/3の領域を占めるαC鎖と相互作用することにより、フィブリン凝集過程でαC鎖のリリースを抑制的に調節しゲル化の速度を制御している、というスキームを我々は提起してきた。そこで、N結合糖鎖とFbg部分鎖(αC)断片との相互作用解析により、このことを実証することを目標として研究を進めた。初年度においては、(1)αC鎖断片の大腸菌による発現・精製、(2)Fbg分解酵素によるαC鎖を切除したフラグメント-Xの調製とその凝集特性の解析、(3)N結合糖鎖が切除されたFbgの凝集特性の解析、の3つにまとめられる。(1)においては、HisタグをつけたαC鎖を2種類調製することができ最終精製過程に入っており、SPR解析のための大量調製に進みつつある。相互作用解析をおこなうための固定化能を持った糖鎖の調製は、糖転移酵素を用いて現在準備中である。(2)ウシFbgのフラグメント-Xがゲル化の第1段階のプロトフィブリルの形成までしか進まないこと、αCを保持したインタクトFbgがごく少量でも混合されるとゲル化することを確認し、αC鎖が第2段階のラテラル凝集に必須であることを実証した。(3)光散乱による分子レベルでの凝集機構の解析により、糖鎖切除によりラテラル凝集への移行が不均一的におこりそれが優先的にラテラル凝集の成長をすすめること糖鎖切除はプロトフィブリルの形成・成長には影響を及ぼさないことがわかった。これにより、糖鎖切除Fbgの繊維構造の特徴の理由が明らかとなり、糖鎖がラテラル凝集への移行を調節している機構について重要な知見を得ることができた。
|