最終年度の今年度は、(1)これまで足踏みしていたN結合糖鎖の非還元末端からの逐次切除による凝集促進効果の検討 (2)D領域、E領域それぞれに結合している糖鎖の役割を明らかにすることについて、大きな成果が得られた。具体的には、2残基目のGal切除によっては更なる変化がほとんど見られず、非還元末端のシアル酸1残基切除による促進効果が主要であり、D領域のBβ鎖に結合している糖鎖がラテラル凝集への移行を調節する主要因子であることが実証された。イオン強度に凝集が依存することから、シアル酸の負電荷が相互作用に関与することから、プロトフィブリル形成時にBβ鎖N端部と相互作用することが強く示唆され、この相互作用を介してフィブリノペプチドBと相互作用しているαCドメインのリリースにN結合糖鎖が関与することが示された。また(3)αC鎖を欠損させたフラグメントXについての研究から、Bβ鎖N端部がラテラル凝集にとって必須の部位であることが明らかとなった。一方、N結合糖鎖の切り出しについては、酵素endo-Mの効率が良くないことから、トリプシン消化による糖ペプチドの調製に方針を転換し、現在最終的な精製段階に達しており、現在進めている遺伝子工学的に調製したBβ鎖N端66残基との相互作用解析を計画している。また、遺伝子工学的に調製したαC鎖部分鎖の相互作用解析からは、αCドメインがE領域(フィブリノベプチドB)と相互作用すること、αC鎖同+でアミロイド様のβシート構造を作ることを確認した。これらを総合すると、Bβ鎖N端部がラテラル凝集の中心となり、αC鎖はそれを媒介すること、これらのトリガーとしてN結合糖鎖が抑制的に作用する、すなわち、N結合糖鎖はフィブリンゲル形成におけるラテラル凝集の積極的な調節因子として働いているというスキームを示すことができ、当初の研究目的を十分に達成する結果を得た。
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