研究概要 |
オリゴロイシンをベースにした分子を用いれば、単位構造を共有結合で連鎖することなく柔軟で機械強度に優れたフィルムにすることができる。このフィルムは,オリゴロイシン基のβ-シートが側鎖部分で噛み合った独特の構造を持つ(以後ロイシンファスナーと呼ぶ)。ロイシンファスナーは、等方性溶液をキャスト・風乾したり油圧プレス機でキセロゲルを加圧すれば形成される。こうして作った非共有結合性フィルムは、油圧プレスの場合、加圧するほどフィルムの引張応力が向上する。また、気水界面単分子膜の欠陥はきわめて少なく、分子配列は従来の単分子膜以上に稠密である。以上の結果は,オリゴロイシン誘導体のフィルムが、たとえ分子一層分の厚さしかなくても強靱かつ防御性に優れたコーティング材になることを示唆している。本研究では,防塵・防錆等の機能を有するコーティング材への応用を念頭に置いて、I効率的にロイシンファスナーを形成させる条件を確立し、II基材に対する吸着性に優れたオリゴロイシン誘導体を合成して、IIIコーティング性能を検討しようとするものである。 本年度は、既存のロイシン誘導体を用いて、上記IとIIIの検討を行った。その結果Iでは、使用したロイシン誘導体にロイシンファスナーを形成させるにはLB法を用いなければならないが、この方法によるコーティングは表面の粗い一般的な素材に対して現実的でないこと、また、キャスト・風乾するだけでロイシンファスナーを形成するアンモニウム型分子は、熱的に不安定であることなど、いくつかの問題点を見いだすことができた。IIIでは、β-シートで構築されたキャストフィルムによる鉄材の防錆効果を検討したが、未処理の鉄材と比較して、コーティングを行った鉄材は錆びにくくなることがわかった。
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