研究概要 |
高強度繊維は一般に引張強度に比べて圧縮強度が著しく低い。このため,高強度繊維を用いた複合材料の設計においては圧縮強度が設計を律する因子となり,優れた引張強度が十分には活用されていないのが現状である。本研究は,炭素繊維などの高強度繊維の圧縮強度が低い原因を解明して,引張強度及び圧縮強度のいずれもが高い繊維を製造することが可能であるかどうかを見極めると伴に,それが可能であればそのような繊維を製造するための指針を得ることを目的としている。本年度は,高強度繊維の単繊維軸方向圧縮強度を精度良く測定することができる圧縮試験装置を開発し,それを用いて軸方向圧縮強度の測定を行った。また,繊維の圧縮破壊及び引張破壊の機構を比較検討するために,シンクロトロン放射光を用いて繊維の変形過程における小角X線散乱時分割測定を行った。開発した圧縮試験装置は,試長10μm以下の単繊維の圧縮が可能であることや数μm/min以下の速度で精度良く試料ないしは圧子を変位させることができることなどの要件を満たしている。この装置を用いて,引張弾性率や強度が幅広い範囲にわたって異なる炭素繊維の軸方向圧縮強度を精度良く測定した。これらの繊維は,繊維内に存在するミクロボイド周囲の炭素網面の座屈に起因して圧縮破壊が生じると推定された。小角X線散乱時分割測定によって,変形過程におけるミクロボイドのサイズの変化を捉えることに成功した。炭素材料の変形過程における構造変化を捉えた報告例は極めて少ない。
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