研究課題
本研究は、枝分かれ構造を有する高分子が、その絡み合い特性により発現する形状記憶能について、分子構造とレオロジー特性、さらに形状記憶特性との関連性について、分子構造論的に検討することを目的としてきた。最終年度である平成23年度は、様々な分子構造を有する枝分かれポリメタクリル酸エチル(br-PEMA)を調製し、その粘弾性挙動と形状記憶特性について検討した。分子量分布の狭い主鎖PEMAから原子移動ラジカル重合法を用いて側鎖を重合させることにより、主鎖分子量、側鎖分子量、側鎖間分子量の異なる様々な一次構造を有するbr-PEMAを得た。これらの動的粘弾性測定を行い、ガラス転移温度(T_g)以上で貯蔵弾性率と損失弾性率がクロスする温度(T_<cross>)を測定したところ、直鎖状のPEMAと比べ、枝分かれ鎖が存在するbr-PEMAの方がT_<cross>が高くなることが分かった。形状記憶試験では、T_g以上で軟化した状態で変形した試料を、T_g以下で固化させて一時的形状に固定化し、再びT_g以上にした時に自発的に元の形状に戻る回復挙動を測定した。その結果、,以下のことを明らかにした。(1)全体の分子量が高いほど形状回復率は高くなる。(2)側鎖を導入し枝分かれ構造にすることで、形状回復率は向上する。(3)ただし、側鎖分子量が側鎖間分子量よりも高くなると、形状回復率は低下する。これは絡み合いを起こす主鎖の濃度が低下するためであると考えられる。(4)動的粘弾性で求めたT_<cross>が高い試料ほど、高い形状回復率を示す。(5)サイズ排除クロマトグラフィーで求めた分子量と形状回復率との間に、高い相関性が得られた。以上の結果から、枝分かれ高分子の一次構造と粘弾性挙動、ならびに形状記憶能との間には相関性があり、適切な分子設計により形状記憶特性を持つ高分子を得ることが可能であることを明らかにした。
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