研究課題
当該年度では、左右の電極に強磁性金属薄膜を使用し、その金属薄膜のエッジとエッジを対向させた形状を持つ新規なデバイスであるスピン量子十字構造デバイスの輸送特性の理論計算と実験検証をさらに進めた。スピン流と熱流の結合を考慮する交差相関の観点から、このデバイスが、接合部でポイント・コンタクトを有する場合に、電極が並行磁化を持つ場合と反平行磁化を持つ場合において、発生する熱起電力を計算した。その結果、電極の磁化が平行か反平行かによらず、発生する熱起電力のゼーベック係数は42.4μV/Kであり、取り出せる電流、すなわち電力が電極の磁化が平行のときに大きくなり、反平行のときに少なくなることが判明した。このデバイスの幾何学的構造の要因と相互作用して、ポイントコンタクト部位で、熱が溜まり、その結果、大きな電圧(8.13mV)が発生することがわかった。Ni電極を用いたスピン量子十字構造デバイスを実際に作成して、測定を行った結果、巨大な熱起電力(7.7mV)が発生した。理論結果と実験結果の一致は極めて良く、これは、ナノデバイスの回路において、このスピン量子十字構造デバイスが、スピン依存バッテリとして働くことを示しており、熱の発生に手を焼いている現行のCPUの発熱を電力に利用する有望なデバイスになりうることを示した。また金属薄膜のエッジとエッジの間にP3HTとPCBMの有機物質を挟んだデバイスにおいて、理論計算を行い、分子と電極の結合が強結合の場合に、オーミックなI-V特性が得られることがわかった。また、その際に、MR比の結合定数を用いた簡単な公式を導出することに成功した。この系で実験を行った結果、I-V特性は、オーミックなものが得られ、測定された抵抗も計算結果と定量的にとても良い一致を示した。このことから、挟んだ分子の数をカウント出来る可能性を見出し、挟んだ分子のおおよその数を見積もる事に成功した。
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