研究課題
当該年度は、Model Hamiltonianを使って、スピン量子十字構造素子の左右の強磁性電極の間のナノ接合部位に、化合物半導体を挟んだ場合におけるスピン伝導について考察した。具体的には、反転対称性が破れた化合物半導体としてGaAsやGaSbなどの半導体を強磁性金属間にバリアとして挟んだ系で化合物半導体バリアにおいて、3次のDresselhaus効果が効く場合について、磁性金属からスピンを注入した場合の磁気抵抗効果(MR)比のバリア膜厚依存性とスピン軌道相互作用定数依存性を計算した。その結果、スピン軌道相互作用が働かない普通の絶縁体バリアの場合、MR比はバリア膜厚を変えても常に正であるが、GaAs半導体バリアの場合、非常にバリア膜厚が薄い場合(0.01~0.02nm)は、MR比は正であるが、厚みを増すとすぐに負になってしまい、バリア膜厚が3nmまで、ずっと負のままであった。一方、スピン軌道相互作用の大きいGaSb半導体バリアの場合、GaAsと同様に非常にバリア膜厚が薄い場合(0.01~0.02nm)はMR比は正で、厚みを増すとすぐに負になってしまうが、やがて、厚みが1nm程度で符号を変えて、再び正になることが判明した。これらの現象は、マイノリティ・キャリアが半導体中のスピン軌道相互作用で、スピンフリップすることを考慮すると説明することが出来、そのために要する厚みが、GaAs半導体バリアの場合、約10.253nm程度であり、GaSb半導体バリアの場合は2.42nm程度であることから、説明が出来た。そのため、GaAs半導体バリアの場合、厚みが5nm以上あれば、GaSb同様に再びMR比は正になると考えられる。この結果から、スピン量子十字構造素子に、化合物半導体を挟めば、負のMR比を有するデバイスを作製することが可能であることを定量的に予想することが出来た。
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