研究概要 |
構造複雑系物質のひとつの典型である合金系準結晶とその近似結晶の原子構造を電子密度分布レベルで解明し、非周期長距離秩序形成のメカニズムと構造安定性の起源についての知見を得ることを目的に研究を行なった。具体的には、第一にZn-Mg-Dy系正十角形準結晶の構造解析を目指した単相試料作製の条件を、電子顕微鏡、粉末X線回折、EPMAによる試料評価により調べた。準結晶組成として報告されているZn58Mg40Dy2では単相試料が出来ないことを確認し、その組成をわずかに変化させたZn57.6Mg40Dy2.4と412℃1000時間の焼鈍条件で、単相に近い準結晶試料が出来ることをはじめて見出した。これは、この系の単準結晶育成につながる重要な結果である。また第二に、Al-Ni-Ru正十角形準結晶と関連近似結晶の単結晶育成をAlリッチな組成から出発したsolution-growth法により試みた。その結果、準結晶と関連近似結晶ともに数ミリメートル大の単結晶を育成出来た。Al-Ni-Ru正十角形準結晶と近似結晶はX線構造解析が可能なサイズの単結晶が育成されたのは今回が初めてであり、この準結晶のX線による原子構造解明につながる結果が得られた点は重要である。斜方晶Al13(Ni,Ru)4近似結晶については、単結晶X線構造解析を行い、空間群がPmnn,単位胞中に102個の原子を含む構造であることを明らかにした。この結晶構造ではRuとNi原子には明確なケミカルオーダーが存在しないが判明した。第三に、Cd-Yb二元素準結晶構造モデルを用いた、三元素系の同型構造であるAg-In-Yb準結晶の表面構造解析をおこない、準結晶の構造単位の一つである菱形30面体クラスターの中心を通る断面構造に対応する原子面が実際に観測される安定表面構造であることを明らかにした。
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