研究概要 |
極地氷床コアの研究により過去100万年スケールの地球の気候・環境変動の研究が行われている。極地氷床コアの氷は、それ自身が数10万年の長い年月におよぶ氷床の流動の過程で塑性変形を受けている特殊な氷である。従って、実験室で作製した氷とは異なる特徴を有する可能性がある。本研究では,種々のX線回折測定により、南極ドームふじおよびVostok基地で採取された氷の構造の特徴を明らかにすることを目的とする。 今年度は南極ドームふじ氷床コアの氷を、深さ700mから3025mまでほぼ500m毎に、従来行ってきたロッキング・カーブの測定、格子定数測定に加え、それらの同時測定に相当する逆格子マップの測定を行った。逆格子マップ測定の結果からは格子定数方向の歪は特に見られなかった。(10-12)反射のロッキング・カーブの解析により得られた各試料の転位密度は、深さが深くなるともに概ね減少する傾向が見られたが、2700m付近で転位密度は一時的に高くなった。転位密度が深さの増大とともに減少する傾向はVostokコアの場合と同じで、アニーリング(焼鈍)の効果による転位の消滅が優勢であったためと考えられる。2700m付近での異常は、結晶方位分布測定の結果と同じ傾向を示しており、何らかの異常な変形が起こったものと考えられる。格子定数測定の結果は、前年度までに報告した深さ依存性(a軸は深さとともに増加、c軸は深さとともに減少)と符合するものであった。また、3025mの試料については、2006年11月に測定した格子定数の値と今年度(2011年3月)の測定結果に有意な差は見られず、格子定数から見ると-50℃で保存している状態では約5年の間に経時変化は見られず、緩和現象の進展は起こらなかったと考えられる。
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