本年度は、Si上のGeドットがSiに埋め込まれる過程のX線その場観測に必要なSi用蒸着セルを購入した。しかし、ビームタイムに間に合わなかったため、反射高速電子回折で成長を確認した。SPring8では次年度と研究対象を入れ替え、β-FeSi2薄膜の成長過程を観測した。Si上のβ相薄膜は直接遷移型半導体であるが、α-FeSi2は金属であり発光素子、太陽電池などへの応用には適さない。Si上でのFeの熱反応堆積法では、α相が混在しやすいため、α相出現の原因を解明し抑制することが重要である。成長実験により、(1)Si(001)基板温度500℃以上ではα相(111)面の成長が顕著であり、一旦ある程度大きなα相結晶が形成されてしまうとβ単相を得ることはできない、(2)450℃成長では初期にα相の成長が見られるが、β相(100)面の成長に伴いα相は消滅する、(3)450℃でβ単相を得た後では、900℃までアニールしても再びα相が現れることはない、(4)450℃未満では薄膜の結晶性が良くないことを確認した。そこで最適温度450℃でのα相の成長消滅過程をX線回折で詳細測定した。それによると、β相が出現するまではα相が成長するが、β相成長に伴ってα相は消滅する。消滅過程でのα相からの散乱ピーク幅とピーク強度のX線入射角依存性とを計算と比較することによって、消滅過程でもα相の個々の結晶粒子サイズ(数nm)は減少しておらず、α相の粒子密度が減少していくことが分かった。すなわち、ほぼ粒子単位でα相からβ相への構造転移が起きることでα相が消滅してく。バルクでは950℃以上の高温で安定化するα相が、薄膜成長初期に現れる理由は、粒子サイズが小さい場合はバルクよりも低温でα相が安定になり、粒子サイズ増加と供に成長温度でもβ相が安定になるため、α相からβ相への転移が起きるためと考えられる。
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