化合物半導体中の典型的な格子欠陥(置換型不純物、空格子、アンチサイト欠陥など)において、禁制帯中の中程に位置する深い準位は欠陥まわりの格子変位と強く結びつくことが多く、欠陥増殖・生成反応の反応中心として働くことが多い。これら欠陥を介してキャリヤの多フォノン放出非発光捕獲過程が引き起こす過渡的格子振動のダイナミクスについて、格子変位の配位座標が様々な振動数をもつ基準振動の重ねあわせであることに基づき、シミュレーションを行った。その結果、格子振動の減衰時定数が長く、キャリヤ濃度が高く、したがってキャリヤ捕獲確率が大きい場合は、キャリヤのコヒーレントな連続捕獲並びに格子振動の振幅増大の可能性があること、したがって欠陥反応が誘起される可能性を示し、その条件(発生確率)を半定量的に明らかにした。半導体発光素子の信頼性確保において不可欠となっているこの再結合促進欠陥反応の機構に関して、本科研費研究成果の取りまとめとして、シュプリンガー社から2012年発行予定の図書(上田修、S.ピアートン編集)に総合報告を執筆した。また、第48回応用物理学会スクールにて「励起ナノプロセス入門-基礎と将来展望-」およびMRS(アメリカ材料科学会)の2012年春の学会において成果の発表を行なった。
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