研究概要 |
1昨年度はITO基板上に真空蒸着した低分子フタロシアニンH_2Pc薄膜について,H_2Pcの1次元軸が基板面に対して立つ配向を得ることに成功し,昨年度は高分子フタロシアニンAlPcFについて同様の配向を得ようとしたが目標を達成することはできなかった。今年度は別の高分子フタロシアニンGaPcFについて研究を行い,目標の配向を得ることに成功した。1昨年度に扱ったH_2Pcの場合には,ITO基板表面を十分に平滑化させると共にITO/フタロシアニン薄膜界面にペンタセン薄膜を挿入する,という方法で1次元軸を基板面に対して立てることができたが,GaPcFの場合にはそれらに加えて,GaPcF蒸着時に基板を加熱する必要があることを明らかにした。基板温度は室温から200℃の範囲で変化させてみたが,最適の温度は70℃であった。70℃より高い温度では,個々の結晶粒の結晶性は向上するものの,配向は乱雑になることがわかった。ここで問題になるのが,同じ高分子フタロシアニンであるにもかかわらず,AlPcFとGaPcFの配向性の違いは何に由来するのか,ということである。それぞれの粉末を光学顕微鏡で観察したところ,AlPcFはビロード状の柔らかい粉末であるのに対して,GaPcFは針状の微結晶からなり,結晶性の違いが配向性の違いにつながっていると考えられる, 以上の研究により,高分子フタロシアニンGaPcFを用いた袋小路のないホール輸送路を持つ有機薄膜太陽電池の作製が可能となった。実際に太陽電池を作製してその特性を調べたところ,期待されたような特性の向上は見られなかった。これは,GaPcFの配向性は向上したものの,薄膜界面での電荷輸送特性が低下したためと考えられる。こうして配向性と薄膜界面での電荷輸送特生とをいかに両立させるかが,新しい課題として浮かび上がった。
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