研究概要 |
本研究の目的は、熱電変換材料候補であるTlInSe_2が極めて高いゼーベック係数(約10^6μV/K)を示す要因とされるインコメンシュレート(IC)相(ナノ空間変調構造)を、角度分解光電子分光(ARPES),軟X線発光分光(XES),軟X線吸収分光(XAS)より得た電子構造の全貌から検証することにある。この目標を達成するため、本年度は以下のことを行った。 XES,XAS測定については清浄試料表面の作成に工夫を施してみたが、Tl4p-6sの発光効率が非常に弱く、予想以上に発光強度を稼ぐことに苦慮している。よってスペクトルの偏光依存性が得難い状況にあることから、ARPESおよび前年度から取り組み始めた蛍光X線ホログラフィー(XFH)に測定の重点をシフトしていくことで本課題の目標達成を図りたい。 またTlGaTe_2および2元の基本物質であるTlSeに対して得たARPESスペクトル中にはバルクのエネルギーバンドでは説明できない特殊な分散構造が発見され、本来の熱電材料としての研究展開に加えて大きな成果が得られている。この分散構造は表面の伝導バンドの構造を結合状態密度として観測したものであり、グラフェンおよびBiSe系で観測されているディラックコーンに相当するもので、本研究の進展はトポロジカル絶縁体の理解に深く関わるものである。特にTlGaTe_2の成果はICTMC-17国際会議にて招待講演として報告する機会を与えていただき、国内外に本研究成果のアピールが行えたものと自負している。 さらにXFHにより得られたTlInSe_2の室温における実空間での原子位置からIC相との相関関係を議論した。ホログラム像の解析によれば、Tl原子は結晶中で非常に大きく揺らいでおり、Tl原子の周りのInも協調して揺らいでいることを示唆している。今後、XFHの温度依存性を観測し、IC相やコメンシュレート相と原子位置(揺らぎ)の関連性について議論をする予定である。
|