超伝導多重接合系として研究実績のあるBi_2Sr_2CaCu_2O_y(BSCCO)高温超伝導体単結晶を用い、FIB加工により作製した微小メサ形状の超伝導多重接合系における電流電圧特性を絶対温度1ケルビン以下の極低温まで測定し、以下のような知見を得た。まず、接合サイズを系統的に変化させて、電流電圧特性と接合形状の相関を調べたところ、巨視的量子トンネル(MQT)領域への交差温度およびスイッチング電流分布特性などが接合形状に強く依存して変化する振舞いを観測した。従来超伝導体を用いた単一超伝導接合系における過去の研究成果と比較した結果、この振舞は接合部を流れる超伝導電流密度の空間分布が接合形状や接合サイズに依存して変化することに起因していることが判明した。超伝導多重接合系では、接合サイズに比べてジョセフソン侵入長が短くなるラージ接合系の位相ダイナミクス解明が重要と考えられているが、本研究で得られた知見は、今後ラージ接合系の複雑なスイッチング電流分布特性の解明に重要な役割を果たすものと考えられる。 次に、集束化イオン(FIB)加工による残留Gaイオンが電流電圧特性に与える影響を検証するために、透過電子顕微鏡による多重接合部の観察を試みた。しかしながら、原子像レベルの透過電子顕微鏡観察に耐え得る薄片化試料の作製は予想以上に困難なことが判明し、透過電子顕微鏡による接合部観察には成功したが原子像観察には至らなかった。引き続き、良質な薄片化試料作製技術の蓄積が必要であると考えられる。
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