前年度に引き続き、Bi_2Sr_2CaCu_2O_y(BSCCO)高温超伝遵体単結晶からFIB加工により作製したBSCCO系超伝導多重接合に対して、絶対温度1ケルビン以下の極低温領域までスイッチング電流分布特性を測定した。特にジョセブソン侵入長よりも接合サイズが小さいと考えられる接合形状を持つ素子に対して、低温から室温までのヒートサイクルを繰り返す測定履歴効果を調べた結果、超伝遵転移温度はほとんど変化しないにもかかわらず、スイッチング電流および巨視的量子トンネル(MQT)領域への交差温度が大きく変化する振舞いが観測された。これは、超伝導多重接合系ではジョセブソン侵入長よりも接合サイズが小さい場合ですら、従来の単一超伝導接合系で適用されてきた理論モデルが適用できないことを強く示唆する結果と考えられる。さらに、マイクロ波照射実験を極低温領域を含む複数の温度領域で実施し、BSCCO系超伝導多重接合において形成される離散化量子準位の温度変化を初めて捉えた。 次に、La<2_x>Sr_xCuO_4(LSCO)系超伝導多重接合に対してBSCCO系と同様なスイッチング電流分布特性を測定し、約1ケルビン以下でMQT領域への移行を示唆する実験結果を得たが、BSCCO系とは異なり、65GHzまでのマイクロ波照射実験では離散化量子準位の形成は確認されなかった。この原因をさらに追究するために、現在、照射マイクロ波周波数を90GHzまで広げる準備を進めている。
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