Bi薄膜はSi(111)表面上に極めて平坦に成長するので、ナノエレクトロニクス材料として注目を集めている。加えて、Biは重い元素であるので、スピン軌道相互作用が極めて強く、この事に由来して、新しい電子物性の発現が期待されている。本研究では、はじめにジグザグ端を持つ1-bilayerの(001)膜が、Bi基板上に存在する場合を研究した。フリースタンディングの1-bilayer膜は、他グループによりトポロジカル絶縁体となうことが理論的に予想されている。本研究では、基板の影響により、反転対称性が破れた系での電子状態を明らかにした。Bi基板の厚さにより、電子状態は変化を受けるが、端に起因した波動関数がフェルミエネルギー近傍に現れる事を明らかにした。基板の影響により、本系は、トポロジカル絶縁体とはならないものの、端に起因する伝導が期待できる事が明らかになった。また、本研究ではBi(001)膜のRashba効果についても、調べた。Bi薄膜は、Si(111)表面上に生じた濡層の上に成長する。この濡層の影響を考慮するため、濡層を直接シミュレートするのいではなく、電場を膜成長方向に印加する計算を行った。電場の印加のため、反転対称性が破れ、電場が濡層と同様の効果をBi膜の電子状態に影響を与えるものと見なす事ができる。最近、光電子分光法により、スピンの方向が面外に向いたRashba効果が観測されているが、本研究は、そのような実験結果を再現する事に成功した。
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