研究概要 |
今年度は,前年度のInAs/GaAs(111)A系に加えてInAs/GaAs(001)系も取り上げ,表面状態図および表面での原子の挙動を中心に,格子不整合系における量子ドット形成機構との関連について理論検討を行った。またAlN/Si(001)系におけるエピタキシャル方位関係を明らかにし,従来結果との比較から格子不整合系における薄膜構造の安定性に関する系統的指針を得た。概要は以下の通りである。 InAs/GaAs格子不整合系におけるIn原子の振る舞い:GaAs(111)A基板上InAs成長薄膜の表面構造ならびに表面上でのIn原子の振る舞いの10原子層までの膜厚依存性について検討した。その結果GaAs(111)A基板上でのInAs表面構造は膜厚に依存せず,成長時にはIn空孔が存在する表面構造が安定であること,In原子の吸着サイトは膜厚の増加と共に格子間位置を安定化する傾向にあることを明らかにした。またGaAs(001)基板上InAs成長薄膜の表面構造としては(2×4)α構造が安定であり,表面上でIn原子は安定に吸着すること,一方,量子ドット形成過程で出現する(2×3)/(1×3)構造は不安定でありIn原子の吸着は表面As原子の脱離により初めて生じることを明らかにした。本結果は,量子ドット形成時に混在する(2×4)領域と(2×3)/(1×3)領域で成長機構が異なることを示唆している。 AlN/Si格子不整合系におけるエピタキシャル方位関係:Si(001)基板上のAlN形成過程のエピタキシャル方位関係を検討し,4種類のエピタキシャル方位関係が一定割合でほぼ均等に出現することを明らかにした。本結果は実験結果と一致しており,特に格子不整合度が10%以上となるような系においては,界面での格子緩和よりも薄膜層での格子緩和が薄膜の安定性に寄与することを示すものである。
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