研究概要 |
本研究ではTHz光照射により励起した物質中の特定モードのフォノンが,光学過程,特にコヒーレント相互作用にどのような影響を与えるのかという非常に興味深い研究を可能とするため,これまでほとんど例のないTHzポンプ-可視(近赤外)プローブ分光を実現しようとするものである.この目的のために以下の3つの工夫を行う.(1)THz光をポンプ光として照射したあとに、可視光域の縮退四光波混合(フォトンエコー)測定を行う.(2)共振器型THz帯1次元フォトニック結晶中にサンプルを導入することで,入射THz光の増強効果を得る.(3)共振器型可視帯1次元フォトニック結晶構造も同時に組み込むことで、縮退四光波混合過程そのものを増強する. 今年度は2年目までに結果を踏まえて(1)可視ポンプ-THzプローブ分光系にも応用可能な系の構築,(2)可視域1次元フォトニック結晶サンプルホルダーの作製(3)THzポンプ-可視プローブ分光のデモンストレーションを目標としたが,結果として主に(1)の研究を重点的に行った.まず化合物半導体であるGaAsをサンプルとして用いて,Tiサファイア再生増幅器から出る800mmの光で励起した後のTHz波透過特性を時間分解測定した.その結果,励起キャリアが生成された直後にTHz波の吸収が起こるためTHz波の透過強度が減少し,その後バンド間再結合過程に伴うTHz波透過強度の増大を観測できた.これは通常の過渡吸収測定により測定される緩和時定数と同程度であり,可視ポンプ-THzプローブ分光系が正常に動作していることの確認となった.またサンプルをよりバンドギャップが大きいGaPに変え,二光子吸収励起実験も行った.さらにサンプルとしてGaPを含む共振器型THz帯1次元フォトニック結晶を用いて同様の実験を行った結果,この構造でTHz波の高速変調が可能なことが明らかになった.
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