通常、自然界にある物質では、誘電率、透磁率の分布は非常に限られている。ところが最近のメタマテリアルの発展により、通常自然界にある物質では得られないような光学的性質を持つ物質を作り出すことができるようになってきた。人工的なスーパー素材であるメタマテリアルを用いた面白い応用として、いわゆるクローキング(透明マント)の実現可能性が高まってきている。クローキングとは中心部分に物を隠せる場所(不可視領域)があって、外から電磁波がやってくると、その不可視領域を迂回して、入射してきた電磁波の形を崩さずにそのまま入射方向の後方に抜けさせていくというものである。結果として、装置全体を含めて不可視領域が外から見えなくなる。 我々は、屈折率分布の正負の組み合わせ、および3つの共形変換を用いて、等方性媒質による2次元のクローキングデバイスを設計した。得られた屈折率分布をみると、境界に屈折率の不連続のジャンプがある。一見すると、ここで反射がおこり、クローキングの不完全性の原因になるように見える。ところが、屈折率が不連続となる境界で発生する反射が、他の部分で発生する反射を正確にキャンセルしてトータルとして無反射になることが証明できた。さらに、このクローキングの設計方法には位相遅れもないことも証明することができて、結果として完全なクローキングデバイスとなる。この完全性(反射なし、位相遅れなし)の性質は、正負の屈折率の組み合わせが、本質的な役割を果たしていることを明らかにした。
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