研究概要 |
前年度に引き続き,アモルファスセレン太陽電池開発を行った.特に不純物添加の方法において重要な結果を得たので報告する. これまで多元蒸着法を用いて,回転蒸着法にてヒ素の添加を行ってきたが,この手法では真空中で溶融する固体以外の不純物の添加が難しく,新たな方法を考え出す必要が出てきた.アモルファスの欠陥の多さから,有機半導体でよく使われる電気化学的手法に活路を見いだした.NaCl水溶液(塩水)の電気分解の原理を用いて,a-Se膜を陽極に使うことで,塩素イオンを膜内に取り込む試みを行い,電気分解前後での電気特性の評価を行った.回転蒸着法を用いて従来のヒ素不純物を添加したa-Se膜を用い,膜の上に1mmの隙間を設けて電極を設置し,電流電圧特性を測定すると,電流と電圧が比例関係になった.次に,上記の電気分解処理を行うと,暗電流,可視光照射時の電流は線型のままだったが,254nmの紫外光を照射下時のみ,非線形の整流特性を示した.同様に,電気分解処理の前後にゼーベック測定を行い,電気分解前はp型を示す結果になったのに対し,電気分解後にはn型を示す結果になっていたことから,電気分解法によって,As添加a-Seの表面に塩素が添加されていることが予想された.添加された不純物の濃度と,不純物の膜厚方向の侵入具合を確認するために,シンガポール大学にて飛行時間型二次イオン質量分析を行った.その結果,予想通り電気分解前後では塩素濃度を示す信号強度が一桁以上上昇していたのみならず,200nmのa-Se薄膜の120nm程度まで塩素が侵入していたことが分かった. 今後は,塩素の濃度をコントロール出来るよう,電気分解の条件出しを行うと共に,同様の手法を用いて,有毒なヒ素の代替となる不純物の模索を行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたナノワイヤセレンを用いずとも,既存のアモルファスセレン膜を用いて,電気化学的手法による不純物添加を行うことにより,より早期のデバイス実現が可能となると判断し,計画を進行させた結果、幸いなことに目論見以上の結果が得られた.その一方で,従来のアモルファスセレン製造法よりも簡単な成膜法の模索が急務なのは確かであり,今後は不純物コントロールと共に,そちらの方にも注力していきたい.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,引き続き電気化学的手法を用いて,アモルファスセレン内に塩素をはじめとする様々な不純物を添加することでpn接合を形成し,太陽電池デバイスの作成を行っていきたい.本研究の目標とする太陽電池デバイスは,安価で製造が簡易であることが最優先である.今年度発見した,電気化学的手法を用いた不純物添加は,その大きな躍進となることは言うまでも無い.一方,従来の真空蒸着法を用いたアモルファスセレン薄膜の成膜法は,そのままでも十分簡易プロセスではあるが,それよりも更に簡易化する方法を見いだす必要がある.具体的には,現在セラミックなどの薄膜を簡単,かつ高速に行う事が出来るエアロゾルデポジション法などを用いたアモルファスセレン膜成膜を目指す.これにより,本研究の目的を概ね達成できるのみならず,アモルファス半導体産業に新たな風を吹き込むことが出来ると確信している.
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