研究概要 |
平成22年度の成果として,環境分圧P(N2)=3.0Pa,P(O_2)=1.0×10^<-3>Paの反応性スパッタによるTiN製膜実験において,パルススパッタ技術の適用によって,対DCスパッタで半分以下,15at.%-Oとなるまでに酸素混入を抑制できることが判明した。この直接の原因は,パルス法では電力あたりのTi原子のスパッタ効率が高かったことにある。 平成23年度はパルススパッタにおける放電(電力)の消費状況ををμs単位で観察し,繰り返し周波数やデューティ比を最適化することにした。周波数は200Hz,800Hz,duty比は5~40%,また平均電力として,45~120Wを設定した。本研究で用いたパルス電源は,on時において瞬間電力が一定になるように制御される一方で,off時においても放電を維持するために-300Vをかけてある。全体での消費電力にはoff時の消費電力も積算した。一方DC電源では50,70,100Wなどを用いた。 これらの放電条件のもとで,50mmの距離に設置された水晶振動子による成膜速度の測定を行った。DCスパッタでは電力の約1.5乗に比例して成膜速度は増えたのに対し,パルス法では低電力領域ではDCスパッタよりも成膜速度が大きかったが,電力の増加とともにDC法の製膜速度に近づき,100W付近では同程度となった。これはプラズマ形成に消費された電力がスパッタに有効に寄与しないまま消滅していく割合が大きくなったためである。これらの結果として,電力あたりのスパッタ粒子生成効率を電力印加方法で議論するより,その素過程であるプラズマ生成,ターゲット材料のスパッタ収率の入射粒子のエネルギー依存性,プラズマ電位などの情報が総合的に影響することがわかった。同時に,それらのいくつかを計測することに成功し,また,省電力化の工夫が結果的に酸素混入率を抑制できることが分かった。
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