研究概要 |
アルカリ金属原子を含む溶液からのソノルミネセンスには,連続スペクトル成分に加えてアルカリ金属特有の発光線が含まれる。その発光機構解明を目的にして,本年度はSDS(Sodium dodecyl sulfate)水溶液からのNa発光について調べた。また,ホーン型振動子を用いたときのNa線発光形状についても研究した。 NaCl水溶液では1M程度の高濃度でしかNa発光は起きないが,SDS水溶液では10mMという低濃度でNa発光が観察される。これは,気泡壁にSDS分子が吸着し,その周囲にSDSから電離したNaイオンが引き寄せられ,気泡周囲のNa濃度が高くなるからである。SDS溶液からのNa発光スペクトルの時間変化を測定した結果,超音波印可時間とともにスペクトルが変化し,Na発光成分にも線幅の細い成分,線幅が太くてピークシフトした成分の2種類があることがわかった。はじめは両者が同程度の大きさで観測されるが,時間とともに細い成分が消滅する。気泡に吸着したSDS分子が徐々に気泡内に入って分解され,COなどの分子になる結果,分解ガスとNa原子が相互作用して消光するからであると推察した。このことを裏付けるため,二酸化炭素ガスを混入したNaCl水溶液で,発光スペクトルの濃度依存性を測定したところ同様な現象が観測された。これらの結果は,本課題研究でこれまで示唆してきた「Na原子発光の起源は気泡内のガス相である」というモデルとよく一致する。 ホーン型振動子の先端からは,定在波型と比べて非常に強い超音波を放射することができる。NaCl水溶液ではホーン先端からのNa発光形状はくさび形であったが,粘性の高いエチレングリコール溶液では球状のNa発光形状であった。これは溶液の粘性の違いによって気泡の生成や振動が異なるためであることが高速度カメラ映像から示唆された。
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