量子系のカオス問題は、従来多くの研究が孤立系に対して行われてきた。本研究では、開放系の非平衡定常状態下における量子輸送現象とその背後にあるカオスとの関係を数値シミュレーションにより可視化する。本年度は、研究の第二段階として、次の2つについて取り組んだ。一つ目は、古典系がカオスを示す典型的なモデルとして、2つの開口をもつ2次元スタジアム型ビリヤードを採用し、位相干渉効果に起因する量子輸送係数のゆらぎと、カオス系特有の多階層(マルチスケール)なダイナミクスとの関係を詳細に調べるために、前年度に得られたプログラムを更にチューニングし、より高いエネルギー領域の計算にも耐え得るようにした。同時に、計算する各エネルギーサンプルの値をより細かくして、ほぼ連続的なエネルギー変化とみなせるように、計算を続けている。こうして得られる、各エネルギーに対する波動関数と輸送係数(電気抵抗やコンダクタンスなど)の膨大な複素数データは、大容量記憶装置に蓄積し続けている。高エネルギー領域では、波動関数に微細な構造が現れるため、より多くの情報を蓄える必要がある。二つ目は、前年度までに得られた数値計算によるデータを可視化することによって、子供たちを含めた一般市民に対して、如何に最先端の本研究成果を伝えることが出来るかを学ぶために、実践研究を行った。この貴重な経験は、本研究の後半以降に計画しているアウトリーチ活動に活かす予定である。
|