(1) ブロックヤコビ法に基づく固有値解法の超並列化 行列の固有値問題に対する並列アルゴリズムは数多く提案されている。しかし、既存のアルゴリズムの多くは大規模問題をターゲットとしており、小規模問題で超並列計算機を活用することは想定していない。一方、分子軌道法や第一原理分子動力学法などでは、1万元程度の比較的小さい固有値問題を超高速に解きたいという需要が存在する。このような問題に対して、ブロックヤコビ法の適用を検討した。ブロックヤコビ法は、密行列に対して直接に対角化のための反復計算を行う手法であり、計算量は多いが、演算パターンが単純で通信が大粒度であるという特徴を持つ。本研究では、2次元行列分割を用いたブロックヤコビ法について性能モデルを作成し、弱スケーラビリティの意味で優れた並列性能を持つことを明らかにした。また、スーパーコンピュータ「京」上での性能評価により、このことを確認した。 (2) 符号付き最小特異値に基づく非線形固有値問題の解法 非線形固有値問題A(λ)=0は、電子状態計算や流体力学の安定性解析など多くの分野で重要な問題である。本研究では、大規模疎行列を係数とする非線形固有値問題に対する数値解法を開発した。非線形固有値問題の固有値λは、行列A(λ)を特異にするλの値として特徴付けられる。したがって、A(λ)を定数行列と見たとき、その最小特異値が0になるようなλを求めればよい。しかし、特異値は通常、非負の実数として定義されるため、A(λ)の最小特異値はλに対して滑らかでない関数となり、その零点を求めるのが容易でない。そこで本研究では、λに関して滑らかな関数となる符号付き特異値を導入した。この量を使ってA(λ)が特異となるようなλを求めることで、非線形固有値問題が効率的に解けることを数値実験により確認した。
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