研究概要 |
オーステナイト系ステンレス鋼の微視的残留応力は単結晶の弾塑性異方性に起因して発生するものと考えられる.本年度は,SUS316Lの平板試験片に一軸引張り塑性変形にまる微視的残留応力を多数の回折面の組み合わせにより測定した.粗大粒の影響を考慮した2θ-cos^2x法を開発し測定に利用したところ,2θ-sin^2ψ法より優れていた. 微視的残留応力の結果は,回折面依存性を示し,結晶弾性異方性と密接に関係していることを示唆した.それを整理するために結晶の回折面のヤング率で整理すると,微視的残留応力の傾向とよく関係づけることができた.ヤング率の小さい回折面では引張りの残留応力が,ヤング率の高い回折面では圧縮の残留応力が生じる傾向がわかった.また,塑性変形が大きくなるに従い,微視的残留応力の差は小さくなる傾向がある.単純な弾塑性モデルでそのメカニズムを説明できる. 粗大粒の二次元検出法についても,インボリュートスリットおよびスパイラルスリットを作成し,粗大粒の検出等について実験を実施した.光学系の調整方法などの基礎的実験を試行した.スパイラルスリットの空間分解能を上げると,結晶粒が少なくなること,回折強度が低下するなどの問題があるので,ある程度の空間分解能を下げる必要がある.また,ひずみ測定よりもスリットの光学系の影響が強く,この原因究明とこれを分離する方法が必要である.特に,粗大粒の回折中心とゲージ体積光学系の幾何学中心の差に基づく回折異常がひずみによる回折角の変化よりも大きく,その解明と除去が必要である.
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