研究概要 |
23年度は,結晶弾性異方性の研究において重要な課題として,結晶弾性異方性を持つ粗大粒の応力評価を中心に研究を行った.粗大粒の応力評価においては,2次元検出器が不可欠であり,それには二つの課題がある. 第一は,ゲージ体積を作るための光学技術の確立も課題である.2次元検出器のあらゆる面が回折中心に焦点を結ぶ必要がある.それを実現するスリット技術が未確立であった.本研究ではそれを解決するために,相似形の二つの回転スリットを組み合わせることで焦点を作ることができ,そのスリットを開発し,さらに改良型を作製した. 第二は,回転スリットによるゲージ体積と粗大粒とが互いに影響すると,結晶粒の回折中心とゲージ体積の中心(回折計中心)が一致しない.そのため正確な応力測定が困難であった.これを解決するために,回転スリットと計数型2次元検出器PILATUSを組み合わせ,各回折スポットの回折強度の変化を追跡しながら結晶粒の回折中心と,ゲージ体積の回折中心が一致する位置を特定する解析法を提案した,この方法を回折スポット追跡法(DST法)とした. これらを組み合わせた技術を実証する実験も行い,その成果について,ハンブルクで開催された国際会議MECASENS-VIにて招待講演を行った(学会発表参照). その他,オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lにウォータージェットピーニング(WJP)により形成された残留応力の結晶弾性異方性を調べるために,高エネルギー放射光X線により残留応力の測定を行った.原子密度の小さい回折面ではWJP圧縮残留応力が大きく,原子密度の大きな回折面は圧縮がやや小さく,かつ等二軸応力状態から外れていた.これらのことから,ピーニング残留応力においても微視的残留応力の影響がある.そのほか,立方晶,六方晶のKronerモデルによる回折弾性定数を計算するシステムを公開した(備考).
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