研究概要 |
本研究では,褥瘡発症の力学的メカニズムを明らかにし,褥瘡予防機器を改良してその予防効果を大いに高めることを目的としている.平成21年度は,皮膚内部の血管分岐網を考慮し,皮膚圧迫による血管の変形を求める力学解析法の確立を主な目標として研究を行った. ラットの腹部に挿入した金属板と直径20mmの金属製圧子とで皮膚を挟み込み8Kgfの荷重を6時間負荷する実験を行い,実験後に圧迫を受けた皮膚組織を採取して光学顕微鏡で撮像した.圧迫を加えない皮膚組織も同様に撮像し,それらの画像を比較することで壊死の発生部を明らかにし,その部分における毛細血管分布の確認を試みた.これらの画像から,生体忠実度の高い血管分岐網モデルを作成するために必要な三次元的な血管分岐網形態まで得ることはできなかったが,壊死部における毛細血管の位置や径の情報を得ることができた.より詳細な毛細血管分岐網モデルの作成法については,平成22年度も検討を継続する. また,上記の実験に対応した力学解析モデルを作成し,それを用いてミクロな血管の変形が解析可能なマルチスケール力学解析手法の検討を行った.まず,真皮,皮下組織,皮筋,筋肉からなるマクロな皮膚モデルに荷重・支持条件を与えて有限要素法により応力解析を行い,その上で,大きな応力が発生した箇所に解析領域を絞り込む.さらに,実験で求めた毛細血管の位置と径の情報から血管を内包するミクロモデルを作成し,それにマクロモデルの変形を反映した境界条件を与えて,毛細血管の応力や変形の解析を行った.その結果,大きなせん断変形を受ける箇所で血管断面積の減少が大きく,せん断が毛細血管の閉塞に大きく影響していることがわかった.皮膚の深層でせん断変形が起きにくいような圧迫条件を求めることができれば,褥瘡の予防法に応用可能であることが示唆された.
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