研究概要 |
本研究では,褥瘡発症の力学的メカニズムを明らかにし,褥瘡予防機器を改良してその予防効果を大いに高めることを目的としている.平成22年度は,前年度に引き続き,皮膚圧迫による皮膚内部の血管の変形を求める力学解析モデルの作成と,それに対応した動物実験との比較検証を行った.さらに,褥瘡予防機器を想定したねたきり患者の力学モデルの作成と力学解析を行った. 皮膚内部の血管を考慮した解析で得られた血管閉塞状態を,実験で得られた組織の損傷状態と比較した,解析では,昨年度に開発した,血管を内包するミクロモデルにマクロモデルの変形を反映した境界条件を与え毛細血管の応力・変形解析を行うマルチスケール解析法に,有限要素の内挿関数を用いてより境界条件を正確に反映するような改良を行った.解析では,圧縮主応力が高い筋組織において血管断面積の最大減少率は約12%で,必ずしも毛細血管が閉塞するには至らない結果となった.圧縮主応力も褥瘡発生の指標とされるヒト毛細血管内圧の4.3KPaを下回っていた.実験でも筋組織の層では一部に出血痕が見られるものの褥瘡までは発生しておらず,毛細血管は閉塞に至らずとも虚血に近い状態であることを示した解析は妥当と考えられる.提案したマルチスケール解析法の有効性から,詳細な血管分岐網モデルまでを作成する必要は無く,むしろ分岐部の形状をミクロモデルに反映させる解析の方がより効率的であることがわかった. 褥瘡予防機器を想定したねたきり患者の力学モデルについては,まず,マットレスから身体に作用する力や筋力を計算するための筋骨格モデルを作成し,仰臥位で腰部に作用する力を求め,実験と比較してその有効性を確認した.さらに,骨盤などの骨と軟組織からなる腰部有限要素モデルを作成し,これに筋骨格モデルで得られた荷重を与えて力学解析を行った,解析モデルの妥当性については平成23年度に検討する.
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