研究概要 |
本研究では,褥瘡発症の力学的メカニズムを明らかにし,褥瘡予防機器を改良してその予防効果を大いに高めることを目的としている.平成23年度は,前年度に引き続き,圧迫による皮膚内部の血管変形を求める解析を行った.また,褥瘡予防機器を想定した患者の力学モデルの作成と解析を行い,その妥当性検証のための実験と改良を行った後,エアマットレスの最適性について検討した. 昨年度までに開発したミクロモデルにマクロな変形を反映させ血管の応力・変形解析を行う手法によって大きなせん断変形を伴う解析を行った.血管断面積の最大減少率は圧縮応力が支配的な場合が約12%なのに対し,大きなせん断変形を伴う場合は約19%となり,褥瘡発生にせん断の影響が大きいことを定量的に明らかにした. 患者の力学モデルの検証実験では,成人男性の仰臥位における腰部の接触圧力を圧力センサで計測し,仙骨部で最大の接触圧力が発生していることが分かった.これに対し,昨年度までに開発した解析モデルでは,臀部で最大接触圧力が発生しており妥当性に欠けていた.そこで,骨盤,軟組織,皮膚に加えて脂肪層を考慮した解析モデルに改良し,骨以外の材料特性について非線形弾性を与えて解析を行った結果,最大接触圧力が仙骨下で発生する圧力分布が得られ,定性的および定量的に実験との良い一致が認められた.これにより,褥瘡発生リスク評価のための有効な腰部有限要素モデルを得ることができた.さらに,このモデルを利用して圧切替型の褥瘡予防エアマットレスを対象に解析を行い,その性能評価を行った.3本のエアセルが1組となり内圧が交互に切り替わる各状態において,いずれの場合も最大接触圧力が褥瘡発生の目安を下回り,現状のデザインにおいても褥瘡予防効果が十分あることがわかった.接触圧力や組織内部の応力に応じて,褥瘡が起こりにくいように圧切替時間を最適化できる可能性が示された.
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