研究概要 |
クロムモリブデン鋼の円筒試験片とブロック試験片を作製し,浸炭処理した.浸炭処理は,油焼入と炉冷の2条件で行った.まず,浸炭処理後の断面硬度と炭素濃度を測定し,浸炭層から浸炭濃度の異なる薄片と円筒試験片内部から小片(クーポン試験片)を切出した.薄片には4点曲げ荷重を負荷し,応力解析と残留応力測定に必要な浸炭層の弾性率を実測した.また,小片には中性子線を照射し,未浸炭部の回折面間隔を無ひずみ時の回折面間隔として定義した.ついで,円筒試験片内部に中性子線を照射し,ひずみスキャニングにより円筒の半径,円周,長手の3方向の回折面間隔測定し,残留ひずみ分布を非破壊で実測した.さらに,弾塑性有限要素法により浸炭処理後の炭素濃度,硬度,残留ひずみを解析し,実測値と比較して両者が定性的に一致することを示した.また,解析と実測値の相違から,浸炭処理部品の残留応力の全貌を実測する手法の確立の重要性を強く示すことができた. 一方,薄片表面のX線残留応力測定を行い,面内の残留応力の主応力比を求め,sin^2ψ線図から浸炭層の無ひずみ時の回折面間隔を実測する方法を検討した.また,薄片を回転揺動させた状態で中性子線を照射し,無ひずみ時の回折面間隔を実測する方法を検討し,両者を比較した.その結果,薄片の中性子回折実験から浸炭層の無ひずみ時の回折面間隔を実測でき,無ひずみ時の回折面間隔は炭素濃度に比例し,その値は炭素濃度の3次関数で表されることを明らかにした.以上の成果は,浸炭鋼の回折面間隔から,残留するひずみ成分と浸炭による格子定数の増加分を分離できることを示すもので,3放射線による回折実験から残留ひずみ成分を分離する『ひずみ分離法』で,浸炭層内の残留応力分布を実測できる可能性が高いことが十分確かめられた.
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