研究概要 |
炭素工具鋼SK3基板(HV=300,600,800),および超硬合金WC-Co基板(HV=1650,2050)表面に、マグネトロンスパッタリング法によりTiN膜を被覆したものを試験片とした.購入した電磁加振式疲労試験機を用いて、各試験片の球圧子押込み疲労試験を行った.疲労過程中,球-基板接触領域周辺に生じる薄膜の破壊・はく離を詳細に観察し,破壊・はく離発生特性に及ぼす試験条件(球圧子径2R,最大荷P_<max>)の影響の検討を行った.その結果,以下のことが明らかとなった. (1) WC-Co基板,SK3基板(HV=600,800),いずれの場合も,接触領域周辺の薄膜に微視き裂が発生し,その後ただちにはく離を生じる.その微視き裂は,静的球圧子押込み試験におけるリングクラックの一部と考えられる.薄膜のはく離発生時には,基板のき裂発生は認められない. (2) HV=300のSK3基板では,き裂の発生を伴わずにはく離を生じる.そのはく離は,基板の塑性変形によって引き起こされたと考えられる. (3) 疲労課程中の基板の塑性変形は,WC-Co基板の場合はほとんど認められず,SK3基板(HV=600,800)の場合は,ある程度の塑性変形は認められるが,その大きさの変化は認められない,SK3基板(HV=300)の塑性変形は,HV=600,800基板より大きく,増加傾向を示す. (4) いずれの基板も,はく離発生寿命N_dは,P_<max>低下に従って明確な増加傾向を示す. (5) WC-Co基板のP_<max>-N_d関係は,HVによってよって異なる.その結果は,ヤング率Eの相違の影響と考えられる(E=550GPa(HV=1650), E=640GPa(HV=2050)). (6) SK3基板のP_<max>,-N_d関係は,HVによって異なる.その結果は,塑性変形の影響と考えられる. (7) P_<max>-N_d関係は,いずれの基板も,明確な2R依存性を示す. (8) P_<max>-N_d関係はから求めた,接触円の外側の半径方向の引張応力σ_<r, d>とN_dの関係は,P_<max>-N_d関係に比べて,基板硬さ,2R依存性が小さく,WC-Co基板におけるヤング率の相違の影響も認められない.さらに,HV=600,800のSK3基板のσ_<r, d>-N_d関係は,WC-Co基板のσ_<r, d>-N_d関係とほぼ一致する. (9) 疲労限度(N_d=10^7の時間強度)は,基板材質,硬さによらずに,700~900MPaである.その値は静的球圧子押込み試験から得られたWC-Co基板の静的リングクラック発生強度の35~45%である.
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