研究概要 |
平成21年度においては,粒界転位源よりも優先的に活動できる粒内転位源の最小長さを設定し,転位源が粒界から粒内に遷移するときの臨界転位密度を粒径に依存する形でモデル化した.臨界転位密度を基準とし,粒内の転位密度がその値よりも低い場合には臨界分解せん断応力が増加するように,従来の多重すべり系に対応したBailey-Hirschの式を拡張することで,粒内転位源の枯渇に起因する臨界分解せん断応力の増加を表現した.次に,新たに提案した臨界分解せん断応力モデルを導入し,均質化法に基づくトリプルスケールGN転位-結晶塑性モデルを構築した.さらに,マクロなFCC多結晶平板に対する引張試験を想定し,ミクローメゾーマクロ連成FEM解析を平面ひずみ条件下で実施した.その際,Asaroの平面2重すべりモデルを用い,25個の結晶粒からなる多結晶平板をミクロ構造(ユニットセル)として,このユニットセルをマクロ構造の各積分点に割り当てた.このようにして,ミクロ構造の情報を考慮したマクロ構造の挙動を再現するとともに,マクロ構造における変形の不均一性をミクロ構造の挙動に反映させた.その結果,粒径の減少に伴う初期降伏応力の増加,降伏後の加工硬化率の減少,FCC超微細粒焼鈍材における降伏点降下現象および塑性変形の局所化領域の伝ぱ(リューダース帯の伝ぱ)を計算力学的に再現することに成功した.加えて,転位密度が結晶の加工硬化に及ぼす影響を詳細に調査するために,GN転位密度を上述の拡張Bailey-Hirschの式の転位密度に導入する場合と転位の平均飛行距離モデルにおける転位密度に導入する場合の2通りについて検討し,前者を用いた場合にのみ,実験的に知られている諸寸法効果を再現できることを確認した.
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