本研究は、応力がひずみ速度により変化をする粘弾性特性をもつ脊髄について、自動車事故等の衝撃が加わった際の解析を行うため、高い引張速度を有する強度試験装置を開発し、高ひずみ速度における脊髄軟膜や白質、灰白質の力学的性質の調査を行うことを目的としている。 我々は、過去に、合計80頭の牛の頚髄から脊髄白質と灰白質を完全に分離することに成功し、自作の専用の引張り試験装置を使用して各々の機械的性質を調査した。その結果、白質と灰白質の機械的性質に差があることと応力緩和現象が存在することを明らかにした。しかしながら、それらの実験は、動的ではあるが比較的速度が遅いものである。衝撃が加わった際の解析を行うための更に高速度における力学的試験を行うことは、工学的のみならず学術的にも有用なことである。そこで、過去の試験装置の改良を行い、自動車事故並みのひずみ速度による引張り試験が可能な脊髄用高速引張り試験装置を開発し、豚の頚髄および周辺組織の粘弾性特性を明らかにしたい。 既に、高速試験装置のベースおよび可動部は、ほぼ完成した。しかしながら、試料を保持するつかみ部およびロードセルを内蔵したセンサ部は未完成である。22年度は、実際に豚頸髄の試料を使用し、試験機の試料取り付け部の作成および改良をしながらデータの取得を実施する予定である。 また、追突事故による乗員の外傷性頸部症候群(むち打ち損傷)の原因と考えられている頸椎椎間関節の挟み込み挙動に関する数値解析を行うための基礎的データとして、椎間関節包の機械的性質を得るための引張り試験を行いたいと考えている。
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