研究概要 |
燃費性能向上によるCO_2排出削減、衝突安全性の確保を背景に、自動車産業において比強度の高い成形部品の要求が高まっている。これに応える加工法として熱間プレス・ダイクエンチがある。この方法では、鋼板素材をオーステナイト安定温度域に加熱する必要があるが、この加熱に対して、最近、プレス内「その場」加熱が可能な通電加熱の応用に高い関心が集まっている。プレス内「その場」加熱では、プレスの稼働率向上の観点から、急速加熱が要求される。鋼板のオーステナイト化には炭素の拡散が必要であり、短時間の加熱で拡散が不十分であれば、不完全なオーステナイト化に終わり、ダイクエンチ後の機械的特性、特に、強度特性への影響が懸念される。そこで本研究では、通電加熱の適用における冶金学的留意点を明らかにすることを最終目的とし、本年度は、実用鋼板NHPC-1500を実験材料に、通電加熱条件として加熱温度、加熱時間を種々変化させ、また、ダイクエンチを模擬した鋼ブロックを用いた挟み込みによる冷却において、冷却速度、冷却解放温度を種々変化させ、冷却後の鋼板について硬さ測定と組織観察を行った。その結果、組織が比較的細かい実用鋼板では、通電加熱による急速加熱でも、通常の焼入れ(炉加熱+水冷)とほぼ同等の硬さが得られる、また、冷却解放温度については、その減少とともに硬さは高くなり,200℃以下であれば通常の焼入れと同等のレベルに達する、などの知見を得た。本年度の成果については、平成22年度塑性加工春季講演会にて「通電加熱ダイクエンチ後の硬さにおよぼす処理条件の影響」と題して発表するとともに、2010年10月にフランスで開催予定の国際会議AMPT2010にて"Hardness Property of Die-Quenching Steel Sheet Resistance-Heated and Quenched"と題して発表する。
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