断続切削においては、1回あたりの切削長さを短くしていくと工具刃先の温度が定常温度に達する前に切削が終了し、工具摩耗の低減につながることが指摘されている。本年度は単結晶ダイヤモンド工具を使用し、切削長さを変えた3種類の断続切削実験を行い、1回あたりの切削時間の違いによる切削温度と工具摩耗の変化について調べた。工具形状は頂角120°の角すいとし、被削材にはステンレス鋼を使用した。被削材は円柱形状で端面を凸形としており、凸部の幅を変えることにより1回あたりの切削時間を変えている。切削速度は600m/min、切込みは20μm、送りは10μmである。切削長さを1mm、5mm、10mmとすることにより、1回あたりの切削時間はそれぞれ1ms、0.5ms、0.1msとなる。切り込みは切削距離が2m毎に再設定している。切削中の工具刃先温度の測定には熱放射温度計を使用し、切削中に工具と切りくずとの接触面から放射され工具内を透過してくる赤外線を工具裏面で検出することにより切削中の温度を測定した。切削中の工具刃先温度は、切削直後に急激に上昇するが、上昇の割合は次第に緩やかになり、1ms未満のうちに定常的な温度となる。切削中の工具刃先温度は、切削時間が0.1ms、0.5ms、1.0msの場合、最大でそれぞれ約370℃、400℃、420℃であり、切削時間が短いほど切削中に到達する温度は低い。切削の進行に伴う工具摩耗は、切削後の工具先端摩耗幅を測定したところ、1回あたりの切削時間によらずほぼ一定であり、切削時間が短くなると工具摩耗が低減する現象は見られなかった。一方で工具すくい面の摩耗については、切削時間が長くなるほど大きく摩耗していた。これは切削時間の違いではなく切削長さの違いによるものであり、切削時間が長くなると切りくず長さが長くなり、工具と切りくずとの接触長さが増大した結果すくい面摩耗の増大につながったと考えられる。
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