研究概要 |
本研究では潤滑グリースの流動特性を支配する増ちょう剤の網目構造ならびにこれがせん断によりどのように破壊され,また静置によりどのように回復していくかを潤滑グリースの誘電緩和特性の測定から明らかにしていくことを目的としている.平成21年度は主に増ちょう剤の誘電緩和特性を調べるために,基油に無極性のポリアルファオレフィン,増ちょう剤に極性の大きな12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを用いて各種試料グリースを作製し,LCRメータを使用して20Hz~2MHzの周波数範囲で誘電特性を測定した.その結果,明確な誘電緩和が観測された.増ちょう剤にヒドロキシル基をもたないステアリン酸リチウムグリースでは誘電緩和が観測できないことから,増ちょう剤中に存在するヒドロキシル基に由来する誘電緩和であることが確かめられた.誘電緩和曲線は,吸収曲線が対称に広がったCole-Coleの式で記述されることが確かめられた.緩和強度は増ちょう剤含有量が多いほど,また温度が高いほど大きくなった.一方,緩和時間は増ちょう剤含有量が多いほど短くなった.誘電緩和時間の温度依存性はArrheniusの式にしたがうことが確認され,その活性化エネルギーは増ちょう剤の含有量によらず約40kJ/molであった.ロール安定性試験に準拠した方法により試料グリースに力学的せん断を与え,増ちょう剤の網目構造を変化させたグリースについても測定を行った.このグリースの緩和強度はせん断を与えていないグリースよりも小さくなったが,緩和時間はほとんど変化しないことが明らかとなった.
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