研究概要 |
本研究では,潤滑グリースに対して誘電緩和測定を適用し,潤滑グリースを構成する増ちょう剤と基油の運動性を誘電緩和特性から評価するとともに潤滑グリースのレオロジー特性との関連性を明らかにすることを目的としている.平成22年度は,基油にポリオールエステル,増ちょう剤に12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを用いて試料グリースを作製し,その誘電緩和特性をLCRメータを使用して20Hz~2MHzの周波数範囲で測定した.その結果,グリース中の基油と増ちょう剤の誘電緩和が独立して観測されることが明らかとなった,増ちょう剤の誘電緩和時間の温度依存性はArrhenius式にしたがうことが確認され,その活性化エネルギーは約38kJ/molであった.一方,グリース中に存在する基油の誘電緩和時間の温度依存性はVogel-Fulcher-Tammann(VFT)式にしたがい,基油が単体として存在する場合の温度依存性に近いことが明らかとなった.同一温度で比較した場合には,増ちょう剤の誘電緩和のほうが基油の誘電緩和よりも緩和時間が長いことから,増ちょう剤の配向運動の方が基油の運動よりも遅く,それぞれが独立した運動をしていることが明らかとなった.試料グリースの見かけ粘度,動的粘弾性,クリープ特性の測定を行い,これらレオロジー特性の温度依存性を誘電緩和時間の温度依存性と比較した.その結果,見かけ粘度とレオロジー特性との間には関連性を見出せなかったが,動的粘弾性とクリープ特性の温度依存性は,グリース中に存在する基油の誘電緩和特性の温度依存性に類似しており,潤滑グリースの誘電緩和挙動とレオロジー特性との関連性が認められた.
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