潤滑グリースは潤滑油と増ちょう剤からなる半固体状の潤滑剤である。増ちょう剤は三次元の網目構造を形成し、この網目構造中に潤滑油が保持される。機械的せん断により増ちょう剤の形成する網目構造が変形や破壊を起こすため、潤滑グリースは複雑な流動特性を示し、トライボロジー特性にも大きな影響を与える。本研究では潤滑グリースの誘電緩和測定を実施し、潤滑油と増ちょう剤それぞれの誘電緩和時間の温度依存性について調べた。またレオメータを使用して同一の潤滑グリースに対して見かけ粘度、動的粘弾性、クリープ特性の測定を実施し、その温度依存性について調べた。誘電緩和時間の温度依存性と各種レオロジー特性の温度依存性との比較を行なった結果、動的粘弾性およびクリープの温度特性は潤滑グリース中の潤滑油による誘電緩和の温度特性と非常に類似していることが明らかとなった。一方、見かけ粘度の温度特性は、潤滑グリース中の潤滑油や増ちょう剤による誘電緩和の温度特性とは異なることが明らかとなった。動的粘弾性やクリープのように比較的変形量の小さなレオロジー特性は、潤滑グリース中の潤滑油の誘電緩和挙動から推定が可能である。これに対して、見かけ粘度のような大変形をともなうレオロジー特性に関しては、潤滑グリースの誘電緩和測定から推定することはできない。これはグリースの見かけ粘度が、増ちょう剤の形成する網目構造の変形や破壊といった、大きなスケールでの変形や流動に依存するのに対し、潤滑グリース中の増ちょう剤の誘電緩和は、これよりもずっとスケールの小さい、増ちょう剤分子中の極性基の運動に起因するためと考えられる。
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