自然酸化膜に覆われた単結晶シリコンに対して複数種類の多結晶金属を摩擦させ、原子間隔と摩擦係数の関係を検討した。金属の原子間隔を横軸にとり、摩擦係数をプロットすると、原子間隔が3Åに近づくにつれて、摩擦係数が増加していく傾向が認められた。シリコン自然酸化膜中でのシリコンの原子間距離が3.1Å(文献値)付近にあることから、金属の原子間隔がシリコンの原子間隔に近いほど、摩擦係数が高くなることが明らかになった。この結果は、本研究の計画時に立てた「異種金属間の摩擦係数は、それぞれの金属の格子定数の差に支配されている」という仮説に矛盾することなく、その妥当性さらに強固なものにしたことになる。つづいて、本研究で採用している摩擦条件において、格子間の相互作用が摩擦係数に影響を与えていることを確認するために、単結晶シリコン基板に対して、単結晶の金属ピンを摩擦させた。そのさい、シリコン基板を回転させることで、相対的な結晶方位を変化させることを試みた。その結果、シリコンの(111)面に対して、金の(111)面を摩擦させると、60度周期で摩擦係数が5倍程増減し、格子間の相互作用が摩擦に影響を与えていることを確認した。これは、金属を含む異種材料の摩擦で、格子間相互作用によって摩擦力の異方性が発現することを確認した最初の実験である。また、この結果から、上で述べた「摩擦係数の原子間隔」仮説の妥当性の検証が、より確実なものになったことになる。
|