研究概要 |
前年度までに、自然酸化膜に覆われた単結晶シリコン基板に対して複数種類の多結晶金属を摩擦させ、原子間隔と摩擦係数の関係を検討した。金属の原子間隔を横軸にとり、摩擦係数をプロットすると、シリコン酸化膜中のシリコンの原子間隔である3.1Aに近づくにつれて、摩擦係数が増加する傾向が確認された。その結果を踏まえ、今年度は、単結晶シリコン基板の自然酸化膜をアルカリによるエッチングと、真空中でのArイオンスパッタによって除去した。その基板に対して、Ag, Al, Au, Cu, Ni, Pb, Pd, Taの各多結晶金属ピンを摩擦させたところ、シリコン結晶の原子間隔である2.35Aに近づくにつれて、摩擦係数が増加していく傾向が認められた。これらの2つの結果を比較することによって、摩擦される材料間の原子間隔が近い組合せほど、摩擦係数が高くなる傾向にあることが確認された。したがって、超低摩擦発現条件の一つは、「格子定数の差が大きな材料同士を組み合わせることである」が明らかになった。 さらに、本研究で実証された知見を応用して、実用的な超低摩擦面を実現するために、摩擦中に表面に軟質金属薄膜を自己修復的に形成する表面構造を利用して、大気中及び真空中での摩擦特性に関する検討を行った。CrとAgの多層膜の断面がサブミクロンスケールで交互に表面に現れる基板を用いて、多層膜の方向と垂直に摩擦させたところ、真空中で0.1程度の摩擦係数が得られた。この結果により、本課題によって得られた知見を効果的に実用化する道筋が示されたことになる。また、同時に解決していくべき問題とその解決の方向性についても重要な知見が得られた。
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