昨年度までの研究に引き続き、本年度は擬似圧縮性法の曲がった境界への適用を研究した。格子ボルツマン法と同じ直交構造格子に対して構築された擬似圧縮性法に境界近傍で一次元補間を用いて曲がった境界の問題へ適用する場合、流速場および圧力場に関する精度に関しては格子ボルツマン法より優れているものの、物体に働く力の精度は格子ボルツマン法と同程度であり、これは物体に働く粘性応力の計算に必要となる流速の偏導関数が直交格子上のデータからの補間ではあまり精度よく計算できないことによることが判った。しかし擬似圧縮性法は流体力学変数に対する偏微分方程式に基づいているので、曲線座標系や非構造格子系への拡張が格子ボルツマン法に比べはるかに容易である。そこで擬似圧縮性法を有限体積法へ拡張し、物体近傍では物体表面に沿った構造格子を用いることで曲がった物体近傍の精度低下を防いだ。円筒クウェット流の問題(円筒座標系に対する構造格子)では、円筒に働く力の精度が劇的に改善され、設計通りの二次の収束も確認された。複雑形状の問題では構造格子のみで計算を行うことは格子生成に多くの時間を要し効率的ではない。そこで、物体近傍では物体に沿った構造格子、物体遠方では直交構造格子、そしてそれらを非構造格子で接続するという複合格子系での計算を提案し、その実証として円筒周りの種々の流れの計算を行った。単一円柱および複数円筒を過ぎる一様流の問題において、従来の非圧縮ナヴィエ・ストークス方程式の解法による結果との良好な一致を確認した。本研究ではさらに移動境界の場合に対しても擬似圧縮性法が適用できるように改良を加え、静止流体中を移動する円柱、一様流中を振動する円柱等の問題において、既存の結果との良好な一致も確認している。このような実際の数値解析による検証に基づき、ボアソン方程式を用いない非圧縮粘性流の解法である擬似圧縮性法は工学に必要な複雑な形状の非定常流れの解析にも十分使える見通しが立った。その他、イタリアの研究者と共同で、擬似圧縮性法を格子ボルツマン法的に分布関数を用いて計算できることも示した。
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