研究概要 |
本研究で取り扱うナノスラリーは,水や油などのベース流体中に,数nm~数十nmの大きさのナノ粒子を分散・懸濁させた新しい固液混相流体の一種である.このナノスラリーは長時間放置してもスラリー状態を維持し,搬送に当たって特殊なポンプや配管が不要である,熱伝導率がベース流体よりも数十%程度高いなど、優れた伝熱特性を有している。しかし、このナノスラリーにより顕著な伝熱促進効果が得られるか否かについては、現在でも明らかになっていない.そこで,本研究では市販の10wt%Al_2O_3-水ベースナノスラリーを用いて,円管内強制対流の発達した乱流域を対象に流動および伝熱実験を行い,ナノスラリーの伝熱促進効果を調べてみた.試験円管は,内径4.4mm,肉厚0.1mmのステンレスパイプ製であり,この円管に交流を直接通電することにより,円管内壁を一様な熱流束で加熱した.実験は,内径基準のレイノルズ数Re_d=3000-20000の範囲で行なった.実験に先立ちナノスラリーの動粘度をウベローデ粘度計により測定した.その結果,スラリーの動粘度は水に比べて平均14%程度高い値を示すことが判った.つぎにナノスラリーの圧力損失を測定したところ,ナノスラリーの圧力損失は,同一流速条件下の水と比較して6~14%程度高くなることが判った.さらに,ナノスラリー管内乱流の発達域について熱伝達率の測定を行った.その結果,ナノスラリーの熱伝達率は同一流速条件下で、水のそれに比べてほとんど変化が見られなかった.また,ナノスラリーおよび水のヌッセルト数を同一のレイノルズ数条件下で比較した場合でも,その値は実験誤差の範囲内で一致した.この結果は従来言われているナノスラリーの伝熱促進効果を否定するものである.
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