研究概要 |
本研究で対象とするナノスラリーは、水や油などのベース流体中に数nm~数十nm程度の大きさを有する金属酸化物等のナノ粒子を分散・懸濁させた固液混相流体の一種である。このナノスラリーは長時間放置しても沈降せず、熱伝導率がベース流体のそれよりも数十%程度高い、また、スラリーの搬送に際して特殊なポンプや配管が不要であるなど、優れた伝熱、流動特性を有している。しかし、このナノスラリーを用いることで、顕著な伝熱促進効果が得られるか否かについては、現在でも明らかになっていない。そこで本研究では、市販のAl_2O_3-水ベースナノスラリーを円管内に流し、発達した管内乱流域を対象に流動・伝熱実験を行った。実験に先立ち、まずナノスラリーの室温近傍における動粘度をウベローデ粘度計により測定した。ナノスラリーの濃度を5、10および15wt%の3段階変化させて測定を行った結果、5,10,15wt%スラリーの動粘度はベース流体の水に比べて、それぞれ5,14および20%程度高い値となった。つぎに、このナノスラリーを円管内に流した場合について、ナノスラリニの伝熱促進効果および圧力損失特性を調べた。試験円管は内径4.4mm、肉厚0.1mmのステンレスパイプ製であり、この円管に交流を直接通電することにより、円管を一様な熱流束で加熱した。実験は、内径基準のレイノルズ数Re_d=3000-20000の範囲で行なった。ナノスラリーの圧力損失を測定したところ、10wt%ナノスラリーの圧力損失は、同一レイノルズ数条件下の水と比較して平均10%程度高くなることが判った。一方、発達した管内乱流域の熱伝達率を測定したところ、10wt%ナノスラリーのヌッセルト数は、同じレイノルズ数条件下での水のそれと実験誤差の範囲内で一致した。この結果は従来言われているナノスラリーの伝熱促進効果を否定するものであり、重要な結果と思われる。
|