研究概要 |
著者は,試料表面をレーザで加熱すると同時に,表面の温度変化を赤外線温度計で測定し,熱伝導率と熱拡散率を同時に測定する方法を提案した.この方法は非接触測定法であり,かつレーザフラッシュ法とは異なり加熱面と測定面が同一であるため,試料の形状や寸法上の制約が少なく,生体組織やソフトマテリアルなどの測定法として有用であると考えられる.そこで,生体材料の場合に試料の内部でレーザ光が吸収されることを考慮して理論モデルを作成するとともに,実際にCO_2レーザを用いて模擬生体試料(1wt%寒天)の加熱測定実験を行った。しかし,実験で得られた温度上昇と,試料の熱輸送性質は水とほぼ同じであることから水の熱伝導率,熱拡散率を与えて計算した理論解の結果とはかなりの差があった.その後,試料内部からのふく射の影響やその他様々な要因について検討を行ったにもかかわらず,依然として実験結果と理論計算結果の違いの原因は不明のままであったが,今回,その主たる原因が赤外線カメラの受光画素子間の光のクロストークや光学系に起因した一種の空間分解能の低下にあることを明らかにした. 赤外線カメラのセンサは受光画素子の配列から構成されている.一つの画素に光が入射した場合に,光が入射していない隣接した画素に電流が流れることをクロストークといい,これがカメラの光学系の収差や分解能などと相まって解像度が劣化する.これは,温度の測定精度を要求されない一般用途や,温度勾配が比較的小さい対象物の場合には問題とならないが,本測定法のように,非定常の温度測定で1mmの間で数度の温度差が生じ,しかも温度分布のピークを測定するような場合には大きな影響を受けると考えられる.クロストークなどによる赤外カメラの画素間の光のにじみをローレンツ分布で近似して,これまでの理論解析でえられたレーザ加熱中心位置での温度上昇分布を,畳み込み法(コンボリューション)を用いて赤外カメラの値に補正した結果,カメラの測定値とほぼ一致した.ただし,解析結果と比較して,温度の勾配が多少異なるので,その点についてはまだ検討の余地があると思われる.
|