本研究は、主として自動車車体に用いられる高級鋼材、高張力鋼板(ハイテン・超ハイテン)の製造プロセスラインの改善を熱工学、すなわち冷却技術的に探ることを目的とする。具体的には、昨今広く利用される赤外線サーモグラフィおよび数値計算コードを利用し、沸騰熱伝達特性の高精度予測およびこの知見に基づき鋼材の冷却特性を明らかにすることを目的とする。 平成23年度は、初年度および2年度の実験装置を改良し、実験データの蓄積を行った。実験は大気圧水-水平上向き平板で構成される衝突噴流系(ラミナー冷却)である。今年度は、より普遍的な実験事実を得るために、シリコン製および銀製伝熱面(被冷却面)の大きさを倍、すなわち、幅を20mmから40mmへと拡大し、伝熱面上に存在する液膜が十分に一定流速となる条件下で実験を実施した。実験の手順は、初年度および2年度と同様である。すなわち、伝熱面(裏面塗布処理済み)を、気流型ヒーターで約600℃まで昇温した後、ポンプおよび熱交換器系で一定流量、一定温度に維持されたサブクール水噴流により冷却した。この冷却時の伝熱面の温度を超小型熱画像センサ(赤外線サーモグラフィ)にて計測し、伝熱面裏面の二次元温度分布の時間変動の動画を得た。同時に、側面より超高速度ビデオカメラを用いて、伝熱面上の液膜挙動を高速度撮影にて記録した。実験後、得られた伝熱面温度の時間変化および熱伝導問題を利用し、時空間的な局所的温度および壁面熱流束分布を得た。特に、温度計測と画像計測との同期を計り、高温加熱壁面での濡れ開始時の局所温度の定量化を行った。 その結果、高温加熱壁面での液体の濡れ開始時の局所温度が熱力学的過熱限界温度に近いことを示した。また、熱伝導と沸騰熱伝達に基づく冷却モデルの構築を試みた。特に、特に、被冷却物体の動きも取り入れた熱伝導解析を行い、温度変動等、冷却の様相の定量化に成功した。
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