研究概要 |
通常の液体と異なり,温度を上昇させると表面張力の値がある温度以上では上昇するという特異なアルコール水溶液(ブタノール水溶液など,ここでは非線形溶液と呼ぶ)を用いて,衝突流に沸騰を併せた流動様式での冷却技術に関する研究である. 本年度は研究計画に基づき,ガラス製T字路および樹脂製T字路のミニチャンネルを用いた衝突流沸騰の伝熱実験と,沸騰気泡を模擬した空気の微小気泡の気液界面でのマランゴニ対流の観察実験を実施した. 昨年までは装置の不具合からドライアウトに到達することができなかったが,本年度は実験装置を改良し銅ブロックによる加熱面を用いるなどの改善により,ドライアウト状態(CHF)に到達するデータを採取することに成功した.その結果,ブタノール水溶液(3%ないし7.15%)を用いることで,ドライアウト点の熱流束は純水と比べて,ガラス製T字路(1辺2mmの矩形管)の場合は約25%,樹脂製T字路(1辺3mmの矩形管)の場合は約2.5倍に増加することがわかった.ドライアウト近傍の核沸騰状態の観察から,ブタノール水溶液を用いると気泡が微細化しているだけでなく,沸騰蒸気のブランケットが加熱面を覆っていても加熱面上に薄い液膜が入り混み,それから沸騰を持続している様相が観察できた。これが熱流束増加の一因と考えられる. また温度マランゴニ効果と濃度マランゴニ効果の効き方を考察するため,近似ではあるが空気の微小気泡(直径約3mm前後)を加熱面に置き,温度勾配をかけたときのマランゴニ対流の観察を実施した.その結果,ブタノール水溶液を使用すると,その特異な温度依存性(60度付近で,温度依存性の正負が逆転する)に従い,温度上昇の途中で対流の方向が反転する現象が見られた.今後温度マランゴニと濃度マランゴニの寄与率の検討する際の基礎となるデータである. 以上のように本年度は応用・基礎の両面から大きく研究を進めることができた.
|