これまでに研究代表者は、液体の速度ポテンシャルの存在を仮定し、タンク底板を浮き上がらせようとする角加速度(以下、浮上り角速度)に伴って底板が部分的に角折れ状に浮上る単位奥行きを有する剛な矩形タンクに生じる衝撃圧の数学解を導き、円筒座標系で導出した全ての底板が浮上る場合の衝撃圧の数学解の直径部分のそれと比較することで、当該数式の精度を確認してきた。しかし、平底円筒タンクの底板が部分的に三日月状に浮上った場合に平底円筒タンクに作用する衝撃圧の数学解は、これまで明らかにされてこなかった。その理由は、底板に部分的に生じる三日月状の浮上りは、底板が非対称に浮上ることを意味しており、それを円筒座標系で扱うには、数学的な困難が伴うからであると考えている。 そこで平底円筒タンクを、タンクの中心から放射線状に配置された単位奥行きを有する剛な矩形タンクの集合体と見なす「スライスモデル」を考案した。スライスモデルの利点は、平底円筒タンクの底板に部分的に生じる非対称な三日月状の浮上りの断面を捉えて、直交座標系上の底板が部分的に角折れ状に浮上る単位奥行きを有する剛な矩形タンクの問題として扱えるようにしたことである。そして、スライスモデルの配置位置と平底円筒タンク底板の浮上り範囲に応じた直交座標系上の液体の速度ポテンシャルの数学解から、スライスモデルに作用する衝撃圧を順次求めることにより、平底円筒タンク一周分の衝撃圧が算定できることを示した。 最後に、代表的な無次元化したタンク形状(タンク高さと直径の比)と底板浮上り範囲(底板浮上り幅と直径の比)を用いて、無次元化した衝撃圧の分布を図示し、タンク形状や底板浮上り範囲の違いが衝撃圧の分布に及ぼす影響について考察した。
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