本研究では炭化珪素(以下SiC)を材料とした静電誘導型トランジスタ(Static Induction Transistor:SIT)において、Sicの高い耐熱特性を活かすパッケージ法として圧接パッケージを適用し、最終的にSiパワーデバイスを100℃上回る高温動作で、Siパワーデバイスの1/10以下の超低電力損失で高信頼性を保証するパワーデバイスの実現を目指した。 SiCパワー素子は、使用する半導体であるSiCがワイドバンドギャップで高い熱伝導率を有するため、Si素子を上回る高温条件下で高い信頼性の動作が可能であり、これにより放熱装置の体積を大幅に縮小でき、ハイブリッドカーのエンジンルームや、各種電源装置の筐体に電力変換装置をコンパクトに収納できる、といった多大なメリットが期待される。 まず、雰囲気温度125℃の条件において、従来の樹脂パッケージサンプルにおいて、出力端子に降伏電圧の76.9%の電圧を印加して素子を1000時間遮断する試験(連続遮断試験)を実施した。その結果、試験実施中の漏れ電流は10nA以下に抑えられ同信頼性試験に成功した。また試験後に測定した素子の電気的特性はほとんど試験前のものと変化しなかった。本成果はH23年(昨年度)電気学会全国大会に発表した。(震災のため大会中止、予稿集のみ受理)当初の計画では、平成22年度までに、250℃の条件下で信頼性試験を実施する予定であったが、高温条件で使用する圧接パッケージ治具の設計に時間を要したことにより、圧接パッケージでの250℃信頼性試験の実施には至らなかった。 本研究期間では、当初の最終目標は達成できなかったものの、パワーデバイスの信頼性を評価する上で基本となる125℃におけるSiC-SIT信頼性が実証された。これによって、試作した素子の実用化に一歩前進したといえる。
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