研究課題
本研究では<結晶基板と薄膜との格子の整合性>に着目して薄膜を作製する<格子エンジニアリング>の手法により、(110)SrTiO_3基板を用いて、(119)Bi-2223の非c軸配向膜を作製することを見出した。この膜は成長機構が2次元核成長であるため、基板に対しc面が反対の2つの方向に傾いた双晶ができる。しかし、双晶であるため、面内でc面が繋がっており、表面に印加電極を持つ新しい構造のテラヘルツ素子には使うことができない。この問題の解決のためには、双晶のない薄膜を作製する必要がある。本研究では、表面が(110)面に対し傾斜したSrTiO_3基板を用いる<傾斜基板法>により、ステップフロー成長を行い、双晶のない(119)Bi-2223の非c軸配向膜の作製に成功した。これに<テンプレート2温度法>を併用することでさらに高いTcを持つ非c軸配向膜を得た。一方、デバイス設計の理論計算では、これらの非c軸配向膜を用いると、今までにない全く新しいデバイス構造が可能になり、従来のテラヘルツ波の「強度問題」を解決する、画期的なテラヘルツ素子ができることを明らかにした。すなわち、現在行なわれているBi系高温超伝導体のc軸配向の単一メサを使ったテラヘルツ電磁波発振の実験結果は、連続発振という長所はあるものの、発振強度が非常に弱い。そこで、発振強度を上げる有力な方法は、非c軸配向膜の試料を作製し、薄膜の表面上に印加電圧の電極を設ければ、電極間のすべての固有ジョセフソン接合からの発振電磁波の位相同期が起るので、強い強度をもつテラヘルツ電磁波発振を得ることができる。この試料はテラヘルツ電磁波の増幅デバイスとしても用いられる。さらに、テラヘルツ波放射現象の中でも低バイアスでの発振は、一般に素子内部のキャビティ共振に起因していると考えられ、連続体近似を用いて素子内部の電磁界分布を計算し、具体的なモードや発振周波数を求めた。以上により、コンパクトかつ簡単な素子構造で、実用化に向け最大の壁となっている「強度問題」をクリアーできる途を開いた。
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