研究概要 |
当年度の計画に沿って,有限状態通信路の通信路容量問題に関連してハノイの塔の問題にみられる再帰構造の特徴について,Bielefeld(ドイツ)で開催されたZIF Workshop Search Methodologiesで発表した。さらに,マルチユーザー情報理論の基本問題である干渉通信路容量問題についての最近の展開を台中(台湾)で開かれた2010 International Symposium on Information Theory and its Applications(ISITA)において特別講演として与えた。 また,干渉のある通信路の問題として、すぐれた性能をもつ符号化と復号のアルゴリズムの検討を行った。多様なマルチユーザー通信へ適用可能なものとして格子符号(lattice)は通信路容量の限界に達する符号化として知られているが、実用面では復号の複雑さに問題がある。本研究ではlatticeの復号の計算量を大幅に削減する新しいアルゴリズムを提案した。このアルゴリズムは低密度lattice符号(LDLC)に対して、belief-propagation復号においてメッセージの単一ガウス近似を用いることにより、性能の劣化なしで計算の大幅な削減を実現している。 干渉通信路符号化の例として、(1)フラッシュメモリの符号化、(2)音楽、動画の電子透かし方式を取りあげた。(1)においては、干渉通信路に対するdirty-paper codingとして解釈できることを示し、latticeを利用した符号化法を与えた。(2)では、埋め込みデータ量は大きいが、攻撃耐性が比較的弱いQIM方式とLDPC符号を組み合わせた方式が優れることを確認し、それに基づく電子透かし方式を実現した。音楽用の電子透かしとしてデータ埋め込み量がこれまで世界で提案された方式の中で最大で、攻撃耐性の面でも64kBPSのMP3圧縮にも耐えうる最良の性能を有している。
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